心を通らない

ひかりをすくう (光文社文庫)

ひかりをすくう (光文社文庫)

今自分が独りでも、生まれた時は独りじゃなかった。
『ひかりをすくう』


橋本紡の一作。
氏の作品との出会いは電撃文庫半分の月がのぼる空』から。
中学の時の事なので深く覚えてはいないが、ただ確かなのは自分が初めて買ったラノベだったという事。
あれから、何年かして『流れ星が消えないうちに』も読んだが、何だろう。
どうにも印象を語り辛いのだ。
こう、変わったのか。ただ曖昧模糊とした不定形の印象が唯一その言葉のみを吐き出させた。
決して嫌いではないのだ。だが、どうにも語り辛い。
自身の感受性が変質したのか。
これをつまらないと自身は思っているのだろうか。それすらも分からない。
私は多分好きだった作家が何処か変わってしまったように思えてそれが理解出来ず、故にこの作品も理解出来ていないのかも知れない。
それとも、この作品の雰囲気と自身の精神との波長が合わないのか。

だけど、この作品は綺麗だと思えた。

主人公は日常を「点検」している。
新たに創り変えた日常を、過去の回想を所々に織り交ぜ、時には辛い事や苦しい事を体験して、日常を確かめるようにして生きている。
氏の作品における主人公達の世界はいつも酷く覚束ない。
歩けば壊れてしまいそうな橋の上のようだ。
それでいて、彼女達は多分その上をそろそろと、ゆっくりと大切に歩いている。
歩かされるでもなく、自らの意志で。
さながら、氏の作品に多く登場する猫のように。
だから、氏の作品は丁寧で、繊細で。

橋本紡という人は、多分真っ当な人なのだろうな。